中野研究室の輪講・卒業研究の紹介
中野輪講・卒研では,2つのテーマ (1)さまざまな現象のMathematica を用いて
のシミュレーション (2) 連立方程式のグレブナ基底との応用 を研究しています.
中野研究室は「代数学研究室」というのが正式名称で,(2)の「連立方程式のグレブナ基底とその応用」というのが,本格的な研究(たとえば大学院に進学する場合)をする場合のテーマです.
ただし,今年度から,(1)のいろいろな現象のMathematica によるシミュレーションというテーマを始めて,これが学生諸君に好評なのでこちらも併用する感じで続けていこうと思います.
今年度の輪講では,前期には Mathematica に慣れるために,「Mathematica による工科の数学,田澤義彦著,東京電機大学出版」というテキストを使って,Mathematica
の基本事項(文法など)を練習しました.後期には,「微分方程式で数学モデルを作ろう,日本評論社」 という教科書を使って,さまざまなテーマ,例えば,人口増加のモデル化,放射性炭素による絵画の年代測定,ロケットの飛行,惑星の軌道などの問題について,おもに常微分方程式を用いて数学モデル化してから,それを解いてシミュレーション(アニメーション化)を行う予定です.どのようなシミュレーションができるかはこれからの楽しみですが,きっとうまくいくと楽観しています.
次に,連立方程式のグレブナ基底とその応用について説明します.
最初に,グレブナ基底とは何か,簡単に説明します.みなさんは,線形代数学で,線形(1次)の連立方程式の解法を勉強したと思います.すなわち,連立方程式の係数を並べて係数行列を作り,この行列に行基本変形を施して,縦線の左側を単位行列,または階段行列までもっていきます.この階段形をみて,連立方程式の解を書き下すことができるわけです.
それでは,線形でない高次の連立方程式,例えば,x^2+y^3z+ xyz = 1, x^3+y^2=2, y^4z+z^5=2(x^2 はxの2乗を表しています)のような連立方程式は,どうやって解けばよいでしょうか.
グレブナ基底とは,このような高次の連立方程式の標準形(解けた形)であって,与えられた連立方程式から,ブッフバーガーのアルゴリズムという(基本変形を難しくしたような)操作を施して得られます.グレブナ基底まで変形できれば,グレブナ基底はほとんど解けた形なので,解を書き下すことができます.
線形の連立方程式の場合は,階段行列がちょうどグレブナ基底になっています.
世の中には,連立代数方程式で表される問題や現象はたくさんあるので,これらの問題は,原理的にはグレブナ基底を知っていれば解くことができます.
中野輪講(3年次)では,まず,グレブナ基底の基本的な性質やブッフバーガーのアルゴリズムを学びます.ブッフバーガーのアルゴリズムは,基本変形より難しいので,人間がやるよりも,コンピュータでやってもらいます.そこで,簡単なコンピュータのプログラミングも一緒に勉強します.
その後,卒研(4年次)では,学生諸君の好みに合わせて,グレブナ基底の応用を研究して,卒業研究(論文)とします.数学の好きな人は,グレブナ基底の数学的側面を更に追求してもよいし,数学を何かに役立ててみたい人は,応用に取り組むとよい,と思います.これまでには,整数計画法,人工知能(幾何の証明問題をコンピュータにやらせる),地図の塗り分け問題,グレブナ基底の高速化アルゴリズムなどのテーマに取り組んできました.
さらに,大学院では,ここ数年,グレブナ基底の変種である,偏微分作用素環のグレブナ基底や,ブール環上の多項式環のグレブナ基底を研究しています.特に,ブール環上の多項式環のグレブナ基底を用いて,院生と一緒に,数独(有名なパズルで,みなさんもたぶん知っていると思います)を数秒で解くことのできる解法ソフトを開発しました.
卒研の例として,2012年度の4年生が地図の塗り分け問題に取り組んだ結果の研究発表スライド(Sotsukenslide.pdf)を,この下にリンクしておきます.平面上の地図は,4色あれば必ず,隣り合う国が違う色になるように塗れることが証明されています(4色定理).ところが,3色の場合は,3色で塗れる地図と,塗れない地図が両方とも存在します.この研究では,地図(のグラフ)を入力して,3彩色可能か不可能かを判定し,更に,3彩色可能な場合は,何通りの異なる塗り方があるか出力するプログラムを開発しました.この3彩色問題は,連立方程式でわりと簡単に表現することができるので,グレブナ基底を用いて,解があるかどうか判定ができるわけです.この研究の結果,関東甲信越10県の地図は,3彩色不可能であること,また,ヨーロッパ20か国の地図は3彩色可能で,相異なる塗り方は320通りあることがわかりました.これらは,卒研生が自分たちで発見した結果です!内容はまだ,少し難しいかもしれませんが,研究の雰囲気はわかると思います.
以上,簡単に中野研究室の研究内容を紹介しました.もう少し,詳しく知りたい人,質問がある人は,遠慮なく私に声をかけてください.